11月25日(火)、日本山岳会の「山岳遭難防止セミナー」に参加してきました。
山岳遭難防止セミナー「山岳遭難の実態と救助現場からの声」
主催:公益社団法人日本山岳会 遭難対策委員会
講師は、長野県警山岳遭難救助隊・宮崎茂男隊長、写真を交えてお話を頂きました。
お話しを聞きつつ私がとった筆記記録を元に、既にTwitterにレポートをUPしています。
Twitter記録に加筆修正して、ブログ記事として配信します。
お話の内容全てを網羅出来ておりませんし、発言を100%正確に記事に出来ておりませんのでご了承のうえ、ご覧ください。
※以下、「 」内は宮崎隊長の発言、その他は私の文章です。
「救助要請は携帯電話からの110番通報の比率が増えています。
その分、体力・技術不足に起因する通報(左右どちらの道か分からない等)や、善意からの目撃だけ通報(さきほど見かけた方を助けてあげて欲しい等)が増えています。」
善意から第三者が通報するのであれば、目撃談だけで通報するのではなく出来る限りその場で救助要請をしてほしいです。
後になってあの人大丈夫だったかなと心配になって、離れてから通報されても状況が分からず対応が難しくなるからです。」
滑落を目撃した場合など、そもそも要救助者に近づけない場合は目撃のみの通報になってしまうことは当然だと思います。
ただ、疲労や軽度の怪我だと本人が「大丈夫」と言うことが多いのかもしれません。
また、判断に迷ってその場では救助要請をしなかったけれども、後になって要救助者から離れた状況で通報するというケースがあるようです。
このようなことは出来るだけ避けてほしいということでした。
何とも信じられないですが、そんなことってあるんですね(^_^;)

私の関わった事例では残雪期富士山のチェコ人の方の救助では、本人が警察への救助要請を嫌がったのですが、私の判断で要請しました。
この時は私がロープで確保しつつ下山したので、救助要請をしないという選択肢もありました。
しかし、万全を期して、下から救助隊に上がってもらい途中で引き継ぐのが理想的と考え、本人の意向を無視して(^_^;)救助要請しました。
要救助者が救助要請を嫌がることはあると思いますが、冷静に安全を最優先に考えて、必要だと思うなら速やかに連絡をすべきです。
後から通報なんて初動が遅れるだけですから。
また、夏の富士山の男児滑落事故では、遭難現場(私)、通りすがりの登山者、近くの山小屋と、少なくとも三ヶ所から警察に救助要請が行っています。
皆事故で慌てて気が動転していますが、要救助者は登山道から滑落していたので事故状況を正確に警察に伝えられるのは現場にかけつけた私と同行者(1名)のみでした。
その他の方の救助要請は結論から言うと、あまり意味がなかったのです。
一番必要なのは現場からの明確な情報ですので、現場にいる者が通報しているかどうか分からないのであれば、現場に応援に駆けつけて、必要であれば現場から通報すれば良かったのです。
混乱する中で、スムーズな救助活動を行うことの難しさを実感した体験でした。
少し話がそれましたので、セミナーの話に戻ります。
気象遭難事例(1)
「12年12月の仙丈ヶ岳で2名行方不明事故がありました。
北沢峠にテント泊し、8日に日帰りで登頂を目指した模様です。
下山予定の9日になっても下山せず、捜索が行われ、後日2名とも遺体で発見されました。
小仙丈ヶ岳直下の広い尾根から2名とも滑落し、行動できなくなり対体温症で亡くなられています。
遭難者の写真記録から山頂到着が午後2時だったことと、ヘッドランプを使用して下山していたことから、行動が遅れたことによる疲労と強風によって行動困難となり、遭難したようです。」
「日帰りの雪山で午後2時に山頂に到着するのは明らかに行動が遅すぎます。
下山遅れてしまったのであれば、無理せず途中でビバークするという選択肢もあったはずです。
また、8日の天気予報は <冬型、ただ長野県南部は雲が多いが晴れ間も> というものでした。
ただし、あくまでも天気予報は平地(市街地)の予報です。
雪の量こそ少ないものの、3000m近い稜線はマイナス20度近く、風速10m以上となります。」
気象遭難事例(2)
「12年5月に白馬岳で6人が死亡する事故がありました。
小蓮華山から白馬岳へ向かう稜線で天候急変に遭遇し、翌朝全員が遺体で発見されました。
決して軽装ではありませんでしたが、ミゾレから吹雪に変わる気象、濡れた衣服が吹雪の中で凍っていく程の悪天候でした。
これほどの厳しい環境ではどんな服装をしていても、行動事態が困難です。
事前に登山を中止する、途中で引き返すなどの判断ができなかったのでしょうか?」
「天気予報はあくまで市街地を想定して発表しています。
そのため、晴れ、雨などの予報結果ではなく、予報士の解説の中で『寒気』『荒れる』『西高東低の冬型 』『発達した低気圧』などポイントになる言葉を逃さないことが重要です。
こういう気象の時は、山を楽しみたいのであれば予定変更がいいと思います。」
その他、冬でも比較的登山者が多い八ヶ岳の事故事例のお話しもありました。
八ヶ岳でも人気のコース、硫黄岳で起こった雪崩事故や、天狗岳の雪庇踏み抜き事故の事例も写真を交えてご紹介がありました。
八ヶ岳は積雪量は多くないですが、風の影響で吹き溜まりや雪庇が出来るので注意が必要です。
次に雪山の遭難防止に役立つビーコンとヘルメットの装着と雪上技術について話がありました。
雪崩事故時はビーコンによって早期発見が可能です。
滑落事故時はヘルメットによって頭部への致命傷を避けることができます。
また、下山時の滑落事故を防ぐにはピッケルとアイゼンを使った確実な雪上技術も欠かすことが出来ません。
ピッケルとアイゼンを使った雪上技術はビデオや本を見ただけでは体得出来ず、しっかりと講習を受ける必要性も指摘されていました。
このあたりはごく当たり前のことではありますが、それが出来ずに遭難する方がいるからこそ、遭難防止のためには言い続けなければならないんだろうなぁと思います。
「長野県では民間ヘリで救助をすることが減っているので、遭難時の捜索・救助費用はそれほど高額にならなくなりました。
遭難時に民間救助隊員に支払う日当が冬期の北アルプスだと日当3万円、保険料13,000円など、1人約5万円で出動人数、日数で総額が変わります。
警察・防災ヘリが出動できず、山小屋のヘリポートなど確実に着陸できる場所に民間ヘリが出動しています。
山小屋での急病人が出た場合や、怪我人を山小屋までは搬送出来た場合などです。」
「行方不明のケースでは捜索が長引くほど、生存救出の可能性が減り、捜索・救助費用がかさみます。
登山届を提出するか、家族に具体的な登山計画を残していることで発見を早めることが出来ます。」
これはビーコンの携帯と合わせて雪山登山では特に大事なことですね。
「長野県はヘルメットの着用奨励地域を指定しました。
山小屋でのヘルメットのレンタルも始まり、指定地域以外でもヘルメットの着用が普及することを願っています。
穂高の稜線から150m滑落した方もヘルメットで頭部、ザックで脊椎が守られ無事に社会復帰できたケースがあります。」
逆に冬期の八ヶ岳・文三郎尾根から滑落死亡した男性のケースの紹介もありました。
雪面の数十mの滑落なのでヘルメットさえ着用していれば命を落とさなかったであろうケース。
滑落中にダケカンバの幹に頭部を打ったことが致命傷だったようです。
セミナーに参加して
仙丈ケ岳・白馬岳の事例含め現場写真を投影しながらの貴重なお話しを伺いました。
特に雪に埋もれたご遺体の写真はショッキングなものでした。
しかし、遭難事故の報に接する時「他人事」と感じないためにも、より深く現実を見つめる意義深い機会だったと思います。
必要な装備を揃える、知識を学ぶ、技術を身に付ける、経験を積む。
どれだけ積み重ね続けても、きっと「自分が遭難するかもしれない」という現実感覚がちょっと薄れると、判断が遅れたりして足元をすくわれるのだろうな。
多くの事故事例に触れて、そう感じました。
なお、定員120名のセミナーで席は半分程度しか埋まっていませんでした。
500円で参加できるのだから、満席になってもおかしくないのに・・・
宣伝の問題でしょうか、せっかく長野から講演に来て頂いているのにもったいないと思いました。
本当に遭難事故の防止のために役立てるのであれば、講演内容の一部でもいいから、YouTubeで配信すればいいのになぁと思います。
最後に、遭難事例にもあった白馬岳6人遭難事故を含め、12年5月連休の気象遭難については以下の記事が参考になりますのでご紹介しておきます↓
【羽根田治の安全登山通信 2012年ゴールデンウィークの遭難事故を検証する】

